
夜学するような柄ではないのですが。
個人的なことですので、あまり大っぴらにしてこなかったのですが、2026年3月末に早稲田大学大学院経営管理研究科(WBS)を修了しました。この2カ月、いろんな人から「なぜビジネススクールだったのか」「今後何に役立てていくのか」といったことを聞かれます。いい機会ですので備忘録がてら書き記しておこうと思います。
まず制作畑の僕が、なぜ経営学修士号を取得しようと思ったのか。理由はひとつではありませんが、振り返ってみると次の一言に背中を押されたのは確かです。
日本の社会人は、勉強しないからね。
ある大学の学長インタビューで聞かされた言葉です。翌月、別の大学の学長からも同じようなことを聞かされました。「日本が中流に落ちぶれたのは、他国と比べて社会人が勉強しないからだ」。それだけで「なにを〜!」と火がつくほど単純ではありませんが、立て続けにこう言われるとさすがに考えさせられるものがありました。
そのとき思い出したのが、20代の頃から「修士号をとりたい」と思いながら棚上げしてきた事実。「時間がない」「金がない」「状況が許さない」「もう遅すぎる」。自分に言い訳し続けてきたものの、このままだと未達の目標がまたひとつ増えてしまうな、と。こんな風にも思いました。「同世代の人が、あまり挑戦しないことをしよう。そのほうが断然ロックだ」と(もっとも僕の好みはジャズですが)。
「なんちゃって経営」にピリオドを。
フリッジは、僕がフリーランスから法人成りする過程で設けた個人会社で、文字どおり経営の「け」の字もないところからスタートしました。最初は人を雇って組織化するつもりはありませんでしたし、会社らしいこと、大人っぽいことが苦手だから独り身(フリーランサー)を選んだはずが、雇ってほしいという人が1人、2人、3人と現れ、その流れで何となく会社っぽい体裁を整えてきたのがこの7〜8年、もう少ししっかりと会社経営をしないと将来がないと思い至ったのがここ数年。つまり「なんちゃって経営」から脱却するためには経営を体系立てて学ぶのが近道だ、と思ったのが入学目的のひとつでした。
僕らの仕事は、突き詰めると経営課題の解決ですから。
他方、長くこの仕事を続けていると責任の大きな仕事を任されるようになるもので、クライアントの経営幹部から悩みを聞かされる機会が増えていました。すると「それ、パンフレットやWebを作り直しても解決しないのでは?」などと感じることが少なからずあるわけです。でも僕は編集者、ライター、コピーライターとしてプロジェクトに携わっているから、助言する立場にはありません。「経営について語れるだけの網羅的な知識や思考力があれば、もっと力になれるのに」と歯がゆい思いをする機会は増え続ける一方でした。
ほかにも顧客のパーパス策定をお手伝いする機会が増えるなかで、どんなパーパスが経営のプラスになるのか研究したいという思いも募っていました。つまるところ制作の仕事をしているからといって「求められるままに作っていればいい」という話ではなく、しっかりと経営課題の解決に向き合いたかったわけです。そうなると、クライアントの事業をより深く理解する必要があります。それなら「経営学を学ぶことが手だ」と思い至ったわけです。
この二年で一皮くらいはむけた、はず。
WBSでの学びを、今後どう生かしていくのか。正直なところ、この2年で知識は懸命に詰めこんだものの、それだけで劇的に成長したとまでは思っていません。一通りの道具は取り揃えて、基礎的な使い方を把握したのみ。これを生かすも殺すも、これからの自分の意識次第。ここが次なるスタートラインとも言えます。自分の意識も大切ではありますが、僕をうまく起用してくれる顧客やパートナーの存在にも期待しています。
実際、このところはクライアントから相談を受けると「何をどう伝えるか」の前に、事業そのものにも目が向きます。結果としてコミュニケーションの課題解決に努めるだけでなく、一歩踏みこんでビジネスそのものについてのディスカッションが展開される機会も増えています。お役に立てているのかどうかはわかりませんが、仕事への関わり方は変化の途上にあるようです。少なくとも、長年にわたって感じていた経営トピックに対する苦手意識はなくなりました。「制作畑だから、ビジネスっぽい話はあまり……」と逃げ腰だった数年前がウソのようではあります。
いずれも小さな変化のうちです。しかし小さな変化の積み重ねの先にしか、大きな変化はありません。今は、焦らず、着実に、次なる何かを探っていく段階にあるのだと感じています。
自分にできないことがあってもいい。
いろんな専門性をもった同期生たちと切磋琢磨するなかでは「自分にできること、できないこと」「やりたいこと、やりたくないこと」も明確になっていきました。どちらかというと、僕は自分で何でもやりたがるほうでしたが、苦手なことは得意な人を頼ったほうがいいとマインドが変わっていったわけです。この2年でご縁のあった人たちは文字どおり一番の財産で、月並みな言い方になりますが各分野で評価されているエキスパートばかり。彼らの手を借りれば、事業の幅をますます広げられるような気もしています。
本当に修了できるのか、最初は不安でいっぱいでした。
兎にも角にも、いろんな文献を手に、いろいろ考え、いろんなレポートを書いているうちに2年はあっと言う間に過ぎました。平日の夜間と週末に通学するのみならず、26時までグループワークに励むこともあれば、会議室でリモートミーティングをしているふりをしてレポートを書いたこともありました(社員ごめん!)。深夜まで課題に取り組んで、寝不足のまま出社したことは数えきれません。
修士論文では「パーパス表現と業績変化についての定量分析」をテーマに初志貫徹。研究は思うように進まないもので常にハラハラしていましたが、秋から1月上旬までに3万字超をしたためることに。本研究ではパーパスのリズムやわかりやすさ、独自性といった表現特性が業績にどのような相関があるのかを定量的に分析。修士論文という限られた時間での研究ではありますが、自分なりにはやり切りました。
今2年前を振り返ると、合格当初はほっとした反面「仕事を続けながら本当に修了できるのか?」と期待より不安が勝っていたことをよく覚えています。30代のビジネスパーソンがマジョリティな環境で友人はできるのか、体力的についていけるのか、最後まで気力はもつのか、と心配ばかりしていました。実際、常に何かに追われている日々はストレスフルでしたが、終わってみれば楽しい思い出のほうが圧倒的に多かったような気がします。学内で仕事の相談をもらうことが何度かあったことも嬉しい誤算でした。こんなチャレンジを頻繁にはしていられませんが、思い切ってWBSに飛び込んだことは、人生において最良の選択のひとつだったと今は感じています。
